絵画の中のギリシア神話

第002話 エンデュミオンの話 

 ディアナとエンデュミオンというタイトルの多い絵画ですが、この話はディアナ(アルテミス)ではなく月の女神セレネとエンデュミオンというのが一般的になります。

 

 セレネは月の女神なのですが、あまり話は残っていません。同じく月の女神のアルテミスや女神ヘカテと同一視される事が多いようです。呉 茂一 著 「新装版 ギリシア神話」(新潮社)の第二章 オリュンポスの神々(一)に、

 

 これらの像はしばしば三面三態を有する「三姿のヘカテー」ヘカテー・トリモルポスの相をとり、勿体らしく解釈する者には、この三態が、天にあっては月の女神セレーネー、地にあってはアルテミス、幽冥界ではヘカテーとして示現する、この女神を象徴するものと考えられた(p189抜粋)。

 

 とあります。元々は1柱の女神に3柱分の役割があり、セレネ、ヘカテの両女神はそうメジャーにはならず、一番有名になったアルテミスがその役割を担っていった、というのが現在のイメージなのかなと思います。

 因みに女神ヘカテとはどのような女神なのでしょうか。ヘシオドス 著/廣川洋一 訳 「神統記」(岩波文庫)の「ヘカテ頌」に、

 

 また彼女(ヘカテ)は 星散乱(ちりぼ)える天にも特権を授かり かくて不死の神々の間でも とりわけ敬われている。というのも 今もなお 地上に暮らす人間どものたれかが 見事な供物を捧げ 慣習(ノモス)にのっとって祈りをあげるさいには いつでも その者はヘカテに呼びかけるのが習いだからだ。その者には 大きな御利益(ごりやく)がいとも容易にやってくる(p55抜粋)

 

 とあります。他の本でもヘカテは概ね、権威ある女神として書かれています。う~ん、絵画や話的にはあまりない女神ですが、権力的には凄い女神のようですね。

 

 さて、肝心のエンデュミオンの話ですが、一般的には羊飼いの一休みで眠ったエンデュミオンを女神セレネが見つけ、その美しさの虜となり、美と若さを保つ代わりに永遠に眠り続けさせた、という話になります。

 

 エンデュミオンは眠り続ける軟弱な青年というイメージがありましたが、ゼウスの息子という説(母カリュケー、父アエトリオスが一般的らしいです)もあり、テッサリアから住民を率いてはるばるエーリス地方まで南下し、エーリスの町を創建しています(地図参照)。

 女神セレネが眠ったエンデュミオンを見つけた場所はカーリア地方のラトモス山の洞穴と言われています(地図参照)ので、エーリスからは随分離れていますね。海を渡ってわざわざ羊を飼っていたのでしょうか…?

 

 疑問は残りますが、エーリス創建、ラトモス山で眠り続ける、が今の定説になっているようです。物語がロマンチックで色々な詩人に詠われたようですので、様々な異伝が残っているらしいです。まぁ細かな事は気にしないようにしましょう。