絵画の中のギリシア神話

第014話 ヘベの話 

 ヘベは青春の女神で大神ゼウスと女神ヘラの娘です。主な役割は天上での祝宴で神々にネクタルという神酒を注いでまわる事でした。「でした」と過去形なのは、とある理由でこの役割を降りた為です。とある理由には2つの説があります。

 

 1つは英雄ヘラクラスが死後、神々の仲間になった際にヘベを妻とした、という説です。ヘラクレスはゼウスがアルクメネーという美女と浮気をして生まれた子供ですので、当然、正妻のヘラはヘラクレスに敵意を抱きます。ヘラクレスが生きている間は散々いじめていましたが、死後、神々に加わるとヘラクレスを許し、自分の娘であるヘベと結婚させた、と話的にはまとまりがあると思います。

 

 もう1つはヘベがお酌している時、無様に転んだ為に役割を外された、という説です。確かに祝宴とはいえ神々の集まりですので、醜態を晒せば外されそうな気はします。ただ、ヘラクレスの妻となったから、の説の方が自然なような気がします。

 

 また、ヘベは珍しくゼウス夫妻の子供のようです。という事はあの軍神アレスと兄妹という事になります。猛々しい軍神と麗しの青春の女神……両極端というか何と言うか。まぁ全知全能・万能の大神夫妻ですから、どんな神様が生まれても不思議はないですが……。

 

 因みに、ホメロス 著/松平千秋 訳 「イリアス(上)」(岩波文庫)の第五歌 ディオメデス奮戦す(九〇九行)には、

 

 そのアレスにヘベが浴みを使わせ、美しい衣装をつけさせると、アレスは意気揚々としてクロノスの子ゼウスの傍らに座を占めた(p180抜粋)。

 

 と、兄妹二人が登場する場面が記述され、ヘベはお酌をしてまわる以外の役割もあったことが伺えます。