マックス・クリンガーの連作版画――尖筆による夢のシークエンス

 

国立西洋美術館

20121103-20130127

2012年11月23日(金) 雨時々曇 13時00分~13時15分頃


【総評】

 

 「手の痕」を観た後、そのまま「版画素描展示室」に行きました。相変わらず空いていましたが「版画素描展示室」では最多の人数だったかもしれません。

 

 マックス・クリンガーさんは今年の初めに三菱一号館美術館で行われた「ルドンとその周辺―夢見る世紀末 岐阜県美術館所蔵」で始めて観ましたが、画風が気に入り、また観たいなと思っていました。

 

 ギリシア神話関連ですが、21点ありました。

 

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:献辞(祈念)」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:ピュラモスとティスベ I」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:ピュラモスとティスベ II」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:ピュラモスとティスベ III」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:ピュラモスとティスベ IV」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:第一間奏」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:ナルキッソスとエコー I」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:ナルキッソスとエコー II」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:第二間奏」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:アポロンとダフネ I」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:アポロンとダフネ II」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:アポロンとダフネ III」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:諷刺(終結)」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:表題紙」

マックス・クリンガー 「オヴィディウス『変身譚』の犠牲者の救済:ピュラモスとティスベ I」

マックス・クリンガー 「『手袋』:キューピッド」

マックス・クリンガー 「『死について II 』:天才(芸術家)」

マックス・クリンガー 「『死について II 』:時と名声」

マックス・クリンガー 「アモールとプシュケー」

マックス・クリンガー 「アモールとプシュケー」

マックス・クリンガー 「アモールとプシュケー」

 

 「オウィディウス『変身物語』の犠牲者の救済」と題された連作版画がメインでしたので、観ていて面白かったです。

 

 「ピュモラスとティスベ」は「ロミオとジュリエット」の元ネタの様な物語です。隣家で愛し合っている二人が共に親に認められず、駆け落ちをしますが、落ち合う場所に先に着いたティスベがライオンに食い殺されたと思い込んだピュモラスが自害し、それを知ったティスベも後を追う、という物語です。

 最初の版画では壁を挟んで向かい合って座っている二人が描かれています。岩波文庫オウィディウス著「変身物語(上)」の対応箇所には、

 

 両家を境する壁に、細い裂け目がありました。むかし、建築ちゅうに出来たのでしょう。この孔(あな)は、長い歳月のあいだに、誰の目にもつかなかったのですが、この恋人たちが、はじめてこれを見つけました--何につけても目ざといのが、恋というものなのでしょう。

 ふたりは、この孔を、声の通路にしたのです(p140抜粋)。

 

 とありました。ふむふむと観ていくと落ち合う場所にはライオンではなく狩人がいます。そしてあろう事か狩人とティスベは仲睦まじくなってしまいます。遅れてきたピュモラスは狩人と決闘をしますが、負けてしまいます……元の話では「死んで」しまいますが「犠牲者の救済」のタイトル通り、破滅的な死から救済はされています(まぁ傷が癒えるまでに時間はかかりそうですが)。

 

 「オウィディウス『変身物語』の犠牲者の救済」、版画によるパロディでした。

 

 「アポロンとダプネ」の元ネタはエロス神(キューピッド)をからかったアポロン神がエロス神のお返しの「金の矢」でダプネに恋をしてしまいます。一方、ダプネは「鉛の矢」でアポロン神を嫌います。追いかけるアポロン神、逃げるダプネ。捉まりそうになった時、ダプネは月桂樹に変わって身持ちを守ります、という物語です(ここからオリンピックなどの「勝者の月桂樹」が始まりました)。

 

 版画を観て行くと何故か牛が出てきます。牛を挟んでアポロン神とダプネ。そしてアポロン神が牛を飛び越えようとしますが、その牛がアポロン神を乗せたまま移動していなくなってしまいます。呆気にとられるダプネ……ダプネは月桂樹に変わる事から救済されます(でも、このままだと「勝者の月桂樹」が生まれなくなりますね……)。

 

 「ナルキッソスとエコー」は、大神ゼウスの浮気を助けたとの事で正妻ヘラ女神から「相手が話しことを繰り返す」だけしかできなくなったエコーが、美少年ナルキッソスに恋しますが、ナルキッソスは水面に写った自分に恋し、水仙に変わってしまいます。そして、エコーはそのままエコー(こだま)になってしまいます。

 

 ところがこの版画ですと、エコーがナルキッソスに声をかけますが、ナルキッソスの心が揺らいで、恋が叶ってしまいます。その後、エコーもナルキッソスもいないナルキッソスが着ていた白い服と湖だけの版画……意味深です。

 

 最後にマックス・クリンガーさんとオウィディウスが、カロンさんがいる下界で対峙する版画で終了しています。

 

 思わず「プッ」と笑ってしまうオススメの美術展です。

 

【購入グッズ】

 なし(販売もなし)。