ウィンスロップ・コレクション フォッグ美術館所蔵19世紀イギリス・フランス絵画

Nineteenth Century British and French Art from the Winthrop Collection of the Fogg Art Museum

国立西洋美術館

20020914-20021208

No:0023_0001

パーンとプシュケ

Pan and Psyche

エドワード・バーン=ジョーンズ

油彩・カンヴァス、65.09×53.34cm(額の内側)(Oil on canvas 65.09×53.34cm,sight)

1872-74年(1872-74)

ハーバード大学付属フォッグ美術館(Fogg Art Museum of Harvard University)

【絵画の中のギリシア神話】 プシュケの話

 プシュケはとても美しかった為(もっともギリシア神話の98%以上は美女ですが……)、美の女神アフロディテより崇拝されました。アフロディテは腹を立て、息子のクピドに醜男と結婚するように仕向けますが、クピドはうっかりと「惚れる矢」で自分を傷付けてプシュケを愛してしまいます。

 

 プシュケは神託により、花嫁としてクピドの用意した宮殿に連れ去られます。この宮殿では美しい音楽が流れ、自動的に食事が用意され、何不自由なく暮らせるようになっていました。夜になるとクピドが臥所を共にしましたが、姿は見せませんでした。この話を聞いたプシュケの姉(2人います)は、その夫は怪物だろうから殺してしまった方がいいと警告し、プシュケもそれに従いクピドを殺そうとします。

 

 夜、眠りこんだ夫を殺そうとランプでその姿を見ると怪物ではなく神のクピドでした。この時、ランプの油がクピドの肩に落ちてクピドは目を覚まします。姿を見られたクピドは、プシュケのもとを去ってしまいます。

 この後、プシュケはクピドの母であるアフロディテを訪れ、許しを請います。アフロディテは穀物の選り分けや人食い羊の羊毛を集めさせる等の難題を出しますが、周りの助けにより、これらをクリアします。

 

 最後にアフロディテは、冥界に行きペルセポネから美をもらってくるように命令します。ここでも助けがあり、プシュケは死なずに冥界に行き、美の入った瓶を手に入れます。しかし帰り途中、つい好奇心に負けて瓶を開けてしまいます。中からは美ではなく「死の眠り」が出てきて、プシュケは眠る屍となってしまいますが、夫・クピドに助けられます。

 

 この後、アフロディテはプシュケを許し、不老不死となってクピドと正式に結婚します。

 

 この絵画は青字部分の、次の辺りを描いた物と思います。カタログには、

 

 しかしバーン=ジョーンズが直截の典拠としているのは、アプレイウスではなく、それに想を得て書かれたウィリアム・モリスの「クピドとプシュケ」であった。 <略> ≪パーンとプシュケ≫は、モリスの文章を忠実に視覚化しており、クピドに去られたプシュケが入水を計るが果たせず、パーンに慰められる場面を描いている(カタログp70抜粋)。

 

 とあります。残念ながらこのウィリアムさんの作品は読んだ事がありません。ただ、クピドに去られた後、絶望しながらクピドを探していますので、入水を計る話があってもヴァリエーションとしては特に違和感はない様に思います。

 

 にしても、このパーンはイケメン過ぎる様な気がします。パーン=好色というイメージもありますので「プシュケさん、この後、大丈夫か?」と思ってしまうのは私だけでしょうか?特に美の女神アフロディテが引き合いに出されるほどの美女ですしね。人事ながら(というか物語なんですけど)ちょっと心配になった絵画でした。


No:0023_0002

真鍮の塔が建設されるのを見るダナエ

Danae Watching the Building of the Brazen Tower

エドワード・バーン=ジョーンズ

油彩、板、17.78×26.04cm(Oil on wood panel 17.78×26.04cm)

1872年(1872)

ハーバード大学付属フォッグ美術館(Fogg Art Museum of Harvard University)


 「娘の子供は祖父を殺す」という予言の為、娘(ダナエという美女)は青銅の塔に閉じ込められますが、それでもペルセウスは誕生します(父親は大神ゼウス。雨に化けて忍び込みました)。

 

 この絵画は青字部分を描いた物と思います。この後、大神ゼウスが雨に化けて交わる部分は良く絵画になっています(有名すぎて借りられないのか、本美術館には少ないですけど……)が、この絵は珍しく閉じ込める為の青銅の塔が建設される場面を描いています。カタログによると、

 

 さらにここに描かれた奇妙な形をした泉水の上部は、そのあからさまに性的な形態とそこから降り注ぐ水によって、のちにダナエに降り注いで懐妊させる黄金の雨をも暗示する(カタログp150抜粋)。

 

 と、やはりその後に大神ゼウスが忍び込む事を示唆しています。

 

詳しくは→ 【絵画の中のギリシア神話】 ペルセウスの話

No:0023_0003

キマイラ

The Chimera

ギュスターヴ・モロー

油彩、板、33.02×27.31cm(Oil on wood panel 33.02×27.31cm)

1867年(1867)

ハーバード大学付属フォッグ美術館(Fogg Art Museum of Harvard University)

 

 

No:0023_0004

アフロディテ

Aphrodite

ギュスターヴ・モロー

黒鉛の上の水彩とグアッシュ、紙、24.4×14.7cm(Watercolor and gouache over graphite on cream wove paper 24.4×14.7cm)

1870年(c.1870)

ハーバード大学付属フォッグ美術館(Fogg Art Museum of Harvard University)


 海の泡から生まれた美と愛の女神・ヴィーナスは近くの島に西風神ゼピュロスの風などにより辿り着きました。

 

 美術展のカタログには、

 

 アフロディテの名は、天空神ウラノスのファロスが海に落ちその泡(アフロ)から生まれたという話に由来しているところから、その場面を描いた本作品では敢えてその名にこだわったのかもしれない(カタログp200抜粋)。

 

 とあります。「泡(アフロ)から生まれた」なのにアフロディテではなくヴィーナスでは辻褄が合わない、というのは筋が通っていますね。

 やはりゼウスの娘というより「泡から生まれた」の方が物語や絵画的には面白みがあるので題材にし易いのでしょうね。

 

詳しくは→ 【絵画の中のギリシア神話】 ヴィーナス誕生の話